N自作したWeb地図で地域課題を考察する

紙面のページ数の関係で,「地理月報」に掲載されなかった所もここでは掲載しています。

 

 

  • 1 はじめに

  • 2 地域課題をかかえる市町村を見つける

  • 3 南牧村の人口ピラミッドを作る
  • 4 南牧村で最も問題が深刻な地区を確認

  • 5 星尾地区の人口ピラミッドをつくる

  • 6 GoogleEarthで地区の概観

  • 7 地区の課題を考察

  • 8 動画とインターネットで具体的な課題・対策を考察

  • 9 課題の共有と対策の構想

  • 10 まとめ

1 はじめに

今回は,自作のWeb 地図をはじめ,様々なICT コンテンツ・ 映像を組み合わせて群馬県の地域課題を考察させたときの, 私の授業実践を報告したい。授業は昨年度,所属校の3 年
文系クラスで,PC 教室を使い5 時限ほどを使いで実施した。

授業ではまず,PC 教室の管理ソフトを通して全生徒のPC に1 フォルダにまとめた教材「配布資料(クリックすると入手できます)」を配布した。内訳は,下図のような考察・作業内容をスライドに整理したPowerPoint ファイル,人口ピラ ミッドを作るための2 つのExcel コンテンツ,生徒の作業内 容をPowerPoint 上に画像として記録しておくためのハードコピーツールWinShot である。

【配布資料の内訳】

「群馬県の人口問題」というPowerPointのファイル

ここには,考察内容を交差順に示すとともに,授業で使う自作のWeb地図,Excelコンテンツへのリンクが埋め込まれています。

各ページのタイトル部分のアンダーラインが引かれている所を「ctrlキー」を押し続けながらクリックすると,リンクに繋がります。

Excelコンテンツ@市町村の人口ピラミッドをつくる

このコンテツは,群馬県内のすべての市町村について簡単な作業で人口ピラミッドが作成するためのものです。2015年国勢調査のデータに依拠しています。

ExcelコンテンツA村の人口ピラミッドをつくる

このコンテツは,南牧村とそのすべての地区について簡単な作業で人口ピラミッドが作成するためのものです。2015年国勢調査のデータに依拠しています。

Winshotはwoodybell氏によって作成されたハードコピーツールです。このツールはフリーツールで使用については一切の制限がないため,このような「配布」という扱いも可能です。

そしてこのアプリの入ったフォルダの中を示したのが左の図です。図中の目玉の絵柄のアイコンをクリックするだけで,このツールはアクティブ状態になります。

またパソコンのインターネットブラウザはGoogleChromeに設定させ, Winshotのファイルをクリック・起動させてアクティブな状態にさせた。この授業で使う自作のWeb地図では,背景地図に地理院地図を使っているが,地理院地図はブラウザをGoogleChromeに設定しないと正常に表示されないため,これは必須の設定である。

2 地域課題をかかえる市町村を見つける
下準備が終わったところではじめ生徒にはPowerpoint「1.地域課題をかかえる市町村を見つける」のタイトル部分(リンクが貼られている)をクリックさせ,個人サイトGEOLINK内にあるWeb地図を表示させた。このコンテンツは,群馬県の地形と人口特色を概観するために用意したものである。

  

@群馬県単位の地形特色の考察

生徒には最初この地図(左の地図)画面右のメニューにある人口,老年人口率,人口増減率,市町村境界(白ベタ)のチェックをすべて外して,色別標高図に市町村界が重ねられただけの地図(右の地図)を表示させ,群馬県全体の地形特色を読み取らせた。これについては,指名するまでもなく,すぐに複数の生徒から「北と西に山地,南東に平地が集中している」といった声があがっていた。


A郡馬県内の人口分布の考察

続いて生徒には地図右のメニューにある市町村境界(白べた),人口(2015年)にチェックを入れさせ(左図の状態),「どのような自治体で人口が多いのか」を確認させた。ここで表示されるのは,市町村別人口を示す図形表現図である。地図の読み取り後は,何人かの生徒を指名して答えさせたが,「前橋市,高崎市,太田市など平野部の自治体で人口が多く,北部と西部の山間の自治体で人口が少ない」といった人口分布の大よその傾向はとらえられていた。なお自治体名は,地図を右図のように拡大させると容易に確認できる。


B群馬県で少子高齢化の進む自治体を考察

最後,生徒には人口レイヤのチェックを外させ,人口増減率(左図)と老年人口率(右図)のレイヤのチェックをON・OFFを切り替えたり,拡大・縮小を操作させながら,「人口減少が過度に進む市町村」と,「老年人口率が最も高い市町村」を考察させ,結果をPowerpointに入力させた。授業では常時,管理ソフトで生徒PCの作業進捗を観察しながら進めたが,ほとんどの生徒は人口減少率,老年人口率ともに「南牧村」が最大であることにすぐに気付けていたようである。


3  南牧村の人口ピラミッドを作る
続いて生徒に行わせたのは,Powerpoint「2.問題が深刻な市町村のピラミッドをつくる」の作業である。つまり南牧村の人口ピラミッドを作らせ,その形から人口動態を考察させた。ここで使用したのは,事前に配布しておいた「市町村別のピラミッドをつくる」というEXCELコンテンツである。このコンテンツは国勢調査結果から私が自作したもので,県内全ての市町村のピラミッドが簡単に作図できる。

 このコンテンツはPowerpointコンテンツの「2.問題が深刻な市町村のピラミッドをつくる」の所をクリックすると,自動的に起動するようにしてあるか,もしリンクがうまく作動しない場合は直接Excelコンテンツを起動せればよい。

 生徒にはEXCELの3つのシートのうち,「男」と「女」のシートにある村のデータをコピーして,「ピラミッド作成0-75才対応」というシートの該当箇所に貼り付け,ピラミッドを作らせた。手順がよくわからないという生徒もいたが,近くの生徒に助言させたり,机間巡視で対応した。作業が終わった生徒には,最初に配布したWinShotでピラミッドのハードコピー画像を,自分のスライドに貼り付け,そのピラミッド型を考えておくよう指示を出した。該当するクラスでWinshotを使わせるのは初めてではなかったので授業の時に説明はしなかったが,操作は至って単純である。


つまりまずPCの右下画面にあるWinshotの「目」の絵柄のアイコンにマウスポインタを置いて右クリック→クリップボードコピー→矩形範囲指定とメニューを進め,そこで画像として生け捕りたい範囲を指定し,あとはマウスポインタをスライド上において,ペーストするだけである。この時も多くの生徒がそれほど時間をかけずピラミッドの貼り付けを完了させていた。ただピラミッド型については「キノコ型」と「ひょうたん型」を記入する生徒に分かれてしまったため,ピラミッドが老年人口以外の年齢階層が少ないものの皆無ではない点に注目させ,「キノコ型」が適当であるとの共有をした。またそれがどのような人口動態を表すのかも,複数人の生徒を指名して答えさせたが,壮年人口と年少人口がほんどないピラミッドの形から,村が「深刻な少子高齢化といった人口動態」を示すことは,気つけていたようである。

ピラミッドの作図例

生徒のPowerPointファイルの内容

 

4 南牧村で最も問題が深刻な地区を確認

 続いて生徒には南牧村で少子高齢化が特に深刻な地区の絞り込み作業を行わせた。つまりPowerpointの「3.課題をかかえる市町村の中でとくに問題が深刻な地区を地図で確認する」をクリックさせ,村の地区別特色を概観するためのWeb地図を表示させた。

 

@南牧村の地形特色の考察

 地図の表示後(初期画面は左下のようになっている)には,画面右のメニューの「2015大字ごとの人口」,「2010-2015人口増減率」,「2015老年人口率」,「大字境界(白べた)」のチェックをすべて外させ(右下のようになる),県スケールでやったのと同様,色別標高図を主体とした地図から地形特色を読み取らせた。これについても生徒は「西のほうがより険い」といった特色を読み取れていた。

地図の初期画面

南牧村の地形特色の確認

A南牧村の人口分布の考察
 そして次は「市町村境界(白べた)」,「2015大字ごとの人口」に交互にチェックを入れさせ(左下のようにする),生徒に「どのような地区に人口が多いのか」を概観させた。これも任意の生徒を何人か指名して答えさせたが,生徒からは「西端にある熊倉が最も少ない」,「山深い西の大字ほど人口が少ない」といった答えがすぐに返ってきた。下仁田町など都市部に隣接した東部では人口が比較的多く,西の山深い所ほど状況が深刻なことが読み取れたところで,この村の人口分布についての概観は終了である。

地図の初期画面

背景図を「淡色地図」にすると,周辺町村との位置関係も明確になる

B南牧村でもっとも少子高齢化が進む地区を考察 
 あとは「2015大字ごとの人口」の非表示にして,任意の地図レイヤにチェックを入れて表示させながら,スライドの「人口減少率が最も高い地区」と「老年人口率が最も高い地区」を読み取らせ,結果をスライドに入力させた。これも,多くの生徒がすぐに人口減少率は熊倉地区が最大,老年人口率は星尾地区が最大といった結果を得ていた。

南牧村の地区別の人口増減率(赤の濃いほど減少率が高い)

南牧村の地区別の老年人口率(青の濃いほど老年人口率が高い)

生徒がPowerpointに記入した内容

5 星尾地区の人口ピラミッドをつくる

 続いて,人口減少率と老年人口率がともに高位の星尾地区に対象を絞り考察を進めさせた。まず生徒には,Powerpointの「4.問題が深刻な地区のピラミッドをつくる」の作業に取り組ませ,星尾地区の人口ピラミッドを作図させた。ここでも事前配布の「村のピラミッドをつくる」というEXCELコンテンツを使ったが,これも国勢調査の結果を利用した南牧村内の任意の地区のピラミッドが自分で作図できるコンテンツである。

 生徒には村のピラミッドを作ったときと同じように,作ったピラミッドのハードコピーを自分のPowerpointスライドに貼り付け,「ピラミッドの型」と「それがどのような人口動態をあらわしているか」を考え,その結果をスライドに書くように指示した。ただ星尾地区のピラミッドは「人口」の授業で学習したどのピラミッド型にもあてはまらないため,生徒には「自分で名前を付けるとしたら何型といえるのか」を書かせた。この点では時間を見計らって何人かの生徒に考察結果を発表させたが,そこで出てきた「円盤型」が一番しっくりくる名前だったため,最後にそれを全体で共有することにした。人口動態は,年少人口が皆無であることから「極度の人口減少」という確認を行った。ここでは村全体のピラミッドに対して,明らかに形が違っていることに驚く生徒が大勢いた。

ピラミッドの作図例

生徒のPowerPointファイルの内容

6 GoogleEarthで地区の概観
 続いて生徒には,星尾地区の現実をイメージさせるため,Powerpointの「5.問題が深刻な地区をGoogleEarthのストリートビューで概観する」をクリックさせた。ここにはウェブ版GoogleEarthの星尾地区付近のリンクが埋め込んである。

 GoogleEarthが起動したあとは,生徒に画面右下の人型アイコンを軽くクリックさせ,ストリートビューが見られる範囲を青線で表示させた。そして地区内の青線の上に,人型アイコンをドラッグさせ,数箇所のストリートビューを見せて,最後,「地区の少子高齢化といった課題」を一番よく表すと考える場所のハードコピー画像をスライドに貼り付けせた。ここで生徒たちが貼り付けたのは,急斜に石垣を積んだ上に建てられた家々,背負子を背負い石垣に腰を下ろし休むお年寄り,車がすれ違いできないような狭い道路,空家か廃屋と思われる多くの家々の画像である。これらの写真の幾つかは,管理ソフトを利用して,生徒全員のPCにも表示させ共有した。

1)下の初期画面が表示されたら,画面右下の人型アスコンをクリック

 


2)上空写真になったら再び人型アイコンをクリックしてこの画面に

 

3)マウスをスクロールして,この「星尾地区」の範囲を表示。任意の「青いラインの場所」に,人型アイコンをドラッグして配置していくと画像が表示される。

画像例1

車のすれ違いも難しい狭い道


画像例2

背負子を背負い石垣に腰を下ろし休むお年寄り

画像例3

高く石垣を積まれた上に建つ家々

生徒が画像を貼り付けたPowerpointファイルの内容

7 地区の課題を考察
(1)地区の交通アクセスを考察
次に生徒にはPowerpointの「6.問題が深刻な地区の状況を考察する」をクリックさせ,Web地図を表示させた。ここで表示されるのは,南牧村住民の生活実態を考察するために作ったWeb地図である。

@すべての住宅(建築物)を表示

まず生徒には,その地図の画面右のメニューの「村役場」から「洪水時浸水域」までのレイヤにあるチェックをすべて外させ,「建築物」と大字界のみが表示される状態にさせた(右下の図)。そして,谷に沿って小さな集落が点々と立地していることを確認させた。

Web地図の初期画面

南牧村の地区別の老年人口率(青の濃いほど老年人口率が高い)

A星尾地区最奥にある「大上」から主要な施設までの距離を計測

続いて生徒にはWeb地図の左上に組込んだ「Measure distances and areas 」の計測機能で,星尾地区の最奥にある「大上」の建築物から,村役場,ガソリンスタンド,食料品店,病院までの距離をすべて計測させ,結果をPowerpointに入力させた。計測にあたっては,作業がやりやすいようにそれぞれの施設のレイヤのON・OFFを自分で切り替えさせた。

実際に生徒に計測させた所は,地図上に二重線で示された道路を使った最短コースである。まず計測にあたっては,地図左上の定規アイコンにマウスポインタを置くと表示される「create a new measurement」をクリックして機能をアクティブ状態にさせる。そしてルートの端点でクリックして計測をはじめ,あとは曲がる所で逐一クリックしながらルートをなぞっていき,最後にメニューの「finish measurement」をクリックすれば,英文で距離が表示される。なかには「こんなに離れているのか」と驚きながらこの作業に取り組んでいる生徒もいた。計測終了後はまた,医療機関から500mの等距離円も表示させ,星尾地区の医療機関へのアクセスに恵まれてないこなども確認させた。

【計測方法】

1)画面左上の定規アイコンにマウスポインタを置くと表示される「create a new measurement」をクリックして機能をアクティブ状態にさせる。

2)ルートの端点でクリックして計測をはじめ,あとは曲がる所で逐一クリックしながらルートをなぞっていき,最後にメニューの「finish measurement」をクリックすれば,英文で距離が表示される。

B公共交通の利用環境を考察
続いて生徒には,高齢者の多い地域では必須の公共交通(バス)の利用環境を確認させた。つまり,地図右上メニューの「バスの停留所」と「停留所から500m」にチェックを入れさせ(左下の図の状態にする),星尾地区の公共交通を使った色々な施設へのアクセスについて課題がないかを考察させ,結果をPowerpointに記入させた。これにも,地区にはバスの停留所から500m以内には家屋が一戸もなく,交通環境が厳しい状況を読み取らせた。

「バスの停留所」と「停留所から500mの等距離円(バッファ円)」

生徒による計測結果と公共交通についての考察結果

(2)地区の自然災害リスクを考察 

 さらに生徒には, 画面右メニューの「土砂災害危険箇所」と「洪水時浸水域」のレイヤにチェックを入れさせ(左下の図の状態にさせる),地区の自然災害リスクを考察させ,その結果をPowerpointに記入させた。この地図では,地区の建物と道路の大半が,土砂災害危険区域と重なっていることが端的に確認できる。Powerpointの「どのような自然災害リスクが大きいか?」という所で生徒が書いたのは,「道路が使えず孤立する」
「土砂災害が多い」「道路寸断により孤立の可能性あり」といった内容であり,それからも,生徒は土砂災害にともなって地域が,孤立,道路寸断などのリスクを抱えることがしっかり読み取れていたようである。

【南牧村全体の自然災害リスク】

集落のある場所のほとんどは土砂災害危険箇所で洪水時浸水域になっている所は皆無。

【星尾地区の自然災害リスク】

地区の建物と道路の大半が,土砂災害危険区域と重なっていることが端的に確認できる。

(3)今後の課題について
以上のWeb地図を使った読み取り演習のあと,生徒には「さらに高齢化が進むことで,どのような生活上の不便が生まれるか」という点を考えて,Powerpointに記入するよう指示した。ここで生徒が書いてきたのは,「食料の調達」「他人の支援がないと生活できなくなる」「物資を手に入れるのが難しくなる」などである。もちろん現在でもさまざまな生活困難,通院困難が想定されるが,それがさらに深刻化することについてもしっかり推察ができていたようである。

8 動画視聴とインターネット検索で,地区の具体的な課題・対策を考えさせる

(1)動画視聴

 以上のような地図演習による考察だけでは,地域で暮らす人々の生の声は知る事ができない。かといって生徒にディベートさせたのでは,机上の空論になってしまう。また生徒全員を,何十キロも離れた南牧村に現地調査に連れ出すことも現実的に難しい。そこで私が授業でとった方法は2つである。関連動画の視聴と,地域課題とその対策についてのインターネットを使った情報検索である。
つまり1時間程の時間を使って, Youtube動画「南牧村で移動販売をされているご夫婦の動画」や,「台風によって荒れた山林の木が台風の時流木となって東京湾まで流れていったときの動画」,「伝統行事がどのように行われているのかとった動画」などを見せる時間を作った。

(2)インターネット検索
そして次の段階で,PC室のPCで1時間程のインターネット検索を行わせ,この星尾地区を含めた南牧村の具体的な課題と,それに対しての対策を調べさせ,結果をPowerpointに入力させた。Powerpointには参考のサイトをいくつか載せておき,村の少子高齢化にかかわる具体的な課題,それに対しての対策を検索して調べさせた。Powerpointには検索のヒントとなるサイトのリンクを幾つか示しておいた(左下)。

生徒が入力した結果の一例は,以下のようなものである。

9 課題の共有と対策の構想
最後,これまでの演習やネットで調べた結果を踏まえ,生徒には星尾地区をはじめ南牧村でもっとも重要と考える課題と対策を挙げさせ,それを生徒全員で共有した。ここで利用したのがWiteboard(ワイトボード)という無料の オンラインツールである。Witeboardは,複数の人間がリアルタイムで同じホワイトボードに文字や図形を描き込めるツールで,ソフトウェアエンジニアのAbhi Kalakuntla氏がつくったものである(https://witeboard.com)。
ホワイトボードでは,最初にアクセスしたページが共有のURLになる。まずは生徒にそのURLにリンクの貼られている送り,そこへ全員をアクセスさせた。

 ネット上のホワイトボードにはあらかじめ,生活面,自然環境,自然災害,伝統文化の4項目の記入欄を,図形描画機能で描いた枠線で用意しておき,生徒にはその中に左に寄せるルールで「課題」を書かせた。さらに生徒が「課題」を記入し終わったら,その記入欄の右側にフリーハンド曲線で仕切りの線を描き,横に「対策」を書かせた。
課題,対策のそれぞれを生徒が記入し終わったところでは,もちろんホワイトボードに書かれているものを全員の目で追ってみて,下のような共有を行った。

生活面では,課題は食料品店・役場などが遠く,病院が少ない。ただ一方で高齢者が多く,足腰の悪いお年寄りがおり,移動手段が不足している。そのため,車がないと移動も難しく,生活していけない。移動販売車が村内を回って生活をささえている。対策としては,もっと交通の便の良い所に移動するといった「コンパクトシティ」のような提案。地域おこし協力隊の活用,インターネットなどで現状を他の地域の人々に伝えて支援を外部に呼びかける。移住者に資金援助して移住を促すといったことがあげられていた。
また自然環境では,課題は昔の植林によってできた山林が多くなっている中で,現在は,伐採などの管理が行き届かず「緑の砂漠」と呼ばれ荒れ放題の林地になっていること。対策・対応としては,間伐などの森林管理については,戦後,植林を呼びかけていた政府がそれを呼びかけること。間伐などの作業をする人自体が,高齢化によっていない現状なので,人材育成をするべきとの対策があげられていた。
自然災害では,課題は高齢者が多く若者が少ないので避難に時間がかかる。道が狭くて救急車両が入って来られない。土砂で道路が埋まると避難もできず,孤立する所が出てしまう。山が崩れて倒木が川に流れるといったことがあげられた。対策としては,災害発生時には高齢者が多いため早めの避難をする。救急車両が入ってこられるように道路の拡張など整備をすすめる。定期的に自然災害を想定した避難訓練を実施するといったことがあげられていた。
また最後,伝統文化にかかわる課題としては,動画でみせた星尾地区の御柱祭などをあげて,子どもや若者がいないために,お祭りもボランティアに頼らざるをえず伝統文化の伝承が難しくなっていることがあげられた。対策としては,住まいを提供するなどして外部から文化を継承できるような若者を取り入れる。SNSを使って伝統文化を発信する。大都市と連携をはかる。伝統行事を動画などで残すといったことがあげられていた。
生徒が書いたものの中には,一部趣旨にあっていないものなどもあったが,概ね課題への気付きと,対策についての考察・構想ができていたようである。

10 まとめ
 今回の授業では様々なコンテンツを組合せて実施した。まず授業では様々な作業や考察内容をPowerpointのスライドに載せ,それに沿って生徒に様々な演習を行わせた。この方法は作業のスムーズな進行をはかり,様々なコンテンツの統合をはかる上で有効だった。
 また自作のWeb地図を使って地域課題の考察させたが,複数レイヤの重ね合わせ,拡大・縮小による読み取り,計測機能や等距離円(バッファリング円)を使った簡単な空間分析などに触れさせる中で,生徒に地域課題考察にGISが有用であることを示すことができた。
 また今回は,自作コンテンツを使い人口ピラミッドも作らせたが,生徒になかなか取り組む機会のない,作図の機会やその原理に触れせることもできた。
さらに授業の後半では,インターネット検索や動画の視聴も取り入れたが,今回取り上げた「地域課題の考察授業」では,実際の現地調査を補完するための有効な手立てとなった。課題を抱える地域は何らかの取材や調査対象になっていることが多く,ネット上で報告書や映像が得られることが多いので,様々な地域の考察に使える方法だと考えた。
 最後のWiteboardというツールは,タブレットなどでも利用可能なツールであるが,短時間での意見のとりまとめ,共有には大変有用だと考えた。
 今回の授業をとおして思ったのは,以上の様な個々のコンテンツの有用性を活かすには,それらを相互補完的に組合せて活用することなのかなということである。

 
 

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