MWebGISで都市問題の授業実践

 今回は,「都市問題」の授業実践をWebGISでやる場合,どんなことができるのかを考えてみた。ここで紹介している実践は私の場合は,所属校では,PC教室で行ったが,タブレットがあればそれを使ってもよいと考える。なお生徒にサイトをみせるため,ワークシートにリンクをはったものを生徒PCすべてに配布し,それをつかわせた。これは「Ctrlキー」をクリックしたまま,リンクの所でマウスをクリックすると,サイトがみられるようになっているワークシートである。

         

 なお「マンハッタンの部分」については,紙面のページ数の関係で,二宮書店連載の「地理月報」掲載されなかった所もここでは掲載している。

 

 

  • 1 はじめに

  • 2 先進国の都市をみる

  • 3 発展途上地域の都市をみる

  • 4 まとめ

 ※ここの文中には,使用するWebGISのリンクが貼り付けてあるが,ここの地図を表示するには,「GoogleCrome」を通常使うブラウザに設定する必要がある。

  地理院地図,Web版GoogleEarthをはじめ実は,WebGISはGoogleCrome上で正常動作するものが多い傾向にあるためである。

 この設定のためには,まずPCをオンライン状態にして「GoogleCrome」のショートカットをクリックし,「Googleの検索画面」を表示させる。もしここでブラウザ(インターネットをみるとめためのソフト)にinternetexplorerが設定されている場合,PC画面上に「デフォルトに設定(通常使うソフトとして設定)」というボタンが表示される。ここをクリックして,GoogleCromeをデフォルトに設定すればいい。実は海外サイトのWebGISを操作するとき,この設定をしておくと,インターネットの自動翻訳が可能となるので,生徒に使用させる場合にはあわせてGoogleの翻訳機能をつかわせるとよい。

1 はじめに

今回は,高校地理の「都市問題」の授業で,WebGISにどのような支援が可能か,具体的に考えてみた。

 まず私が都市問題の授業で生徒に触れさせたいと考えるのは,Human Terrain:Population 3D-ThePuddingというサイトである。ここでは,2015年の世界各地の人口密度が, 3Dの棒グラフで示され,人口の集積地が大変分かりやすくなっている。その横の都市名を読み取れば世界各地の人間が,どのような都市に集積しているのかが一目瞭然である(図1)。 生徒にはまずこの地図で,世界各州の大きな人口集積がみられる都市を概観させたい。北米ではニューヨーク,メキシコシティ。南米ではカラカス,サンチアゴ,サンパウロ,ブエノスアイレス。アフリカではカイロ,キンシャサ。アジアではイスタンブール,カラチ,ムンバイ,シャンハイ,マニラ,ジャカルタ。ヨーロッパではロンドン,バルセロナといった都市が読み取れるはずである。その確認が終わったところで生徒には,「こうした都市での過度な人口集積による様々な不都合な問題を,都市問題と呼ぶ」と示したい。

図1 Human Terrain:Population 3D

そして生徒には同じサイトの画面上にある「1990年と比較」というボタンをクリックさせ,左に1990年,右に2015年の地図を並列表示させる。そして欧米などの先進国と,アジア・アフリカなど発展途上地域の都市の近年の人口集積の動向を確認させたい。生徒は,先進国の都市が高い人口集積のまま近年の動向が安定していること。発展途上地域の都市が近年急速に人口集積が進んでいることを読み取るだろう(図2,図3)。生徒には,それぞれの都市では,こうした人口集積の動向の違いも背景となって,それぞれの問題の現れ方が異なることも示したい。

 

図2 先進国                                     図3 発展途上地域                  

2 先進国の都市をみる

 

 

 

 

図4 位置の確認

 

 

 

 

 

 

 

図5 地域構成の確認

 (1)マンハッタンを鳥瞰

 続いては先進国と発展途上国の都市問題について生徒に考察させるが,まずは前者の例として,ニューヨーク市の核心地・マンハッタンをとりあげる。最初に生徒には,ウェブ版のGoogleEarthで,「マンハッタン」で地名検索させ位置を確認させる(図4)。そして画面右下の3Dボタンをクリック,地域を拡大させ,高層建築が密集する中部がミッドタウン,南部がダウンタウンで,この付近がニューヨークCBDの核心で,ビジネス・ショッピング街となっていること。北側がアップタウンという居住区であることを示す(図5)

 

 

 

図6 午前1時の人口       

図7 午後1時の人口

 (2)マンハッタンの人間の動き

そして次に,マンハッタンの1日24時間の人々の動きを, Manhattan Population Explorerで読み取らせる。地図では,時間帯ごとの人口分布が3Dの棒グラフで確認できる。生徒には画面上のツールバーにある「Visualization(可視化)」をクリックさせ,下にある二つのゲージで曜日と時間帯を設定させる。たとえば月曜の午前1時(図6)と午後1時(図7)の人口分布では,人々が,昼間は中部と南部に集中し,夜はそれが大きく減少していること。つまり通勤・帰宅時間の人の移動が大規模なことを読み取れるだろう。生徒には,こうしたダイナミックな人間の動きから派生する問題にどのようなものがあるのかを,考えさせたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図8 事故発生場所

(3)大規模な人の動きがもたらすもの
次に生徒に見せたいのが,NycMotorVehicleCollisionsというサイトである。ここでは,2012年から2019年のニューヨーク市の自動車事故が可視化できるが,初期設定がマンハッタンの設定なのでそのまま読み取らせる。生徒は,昼間に人口が集中する中部と南部に事故発生が多いことを容易に読み取るだろう(図8)

 膨大な数の人間の集積で起こってくる問題としては他に,大気汚染や渋滞問題,ゴミ問題,光害など様々な問題がある。そうしたことにも触れ,生徒には,先進国の都市では人口の集積によって,経済発展だけではなく,様々なリスク,問題も抱え込むことも考えさせたい。

 

図9 人種分布                  

図10 所得分布

(4)集まる人々の構成
 また先進国の都市内部では,長い都市化の歴史の中で,様々な地域の人間が住み着き社会構成が複雑で,そこに起因した問題も多い。次にこの点を考察させるため,NewyorkTimesのMapping Segregationというサイトで,人種別の居住地を読み取らせる。生徒にはここで,高層建築が立ち並ぶ中部のMidtownや,南部Downtownの大半に白人, Downtown南東端にアジア系が多いこと。北部Uptownが主に黒人・ヒスパニックの混在地区になり,人種間のすみわけ(セグレゲーション)がみられることを読み取らせたい(図9)

 そして次に,esri社のstorymap・WealthDividesのサイトで地区の所得分布をみせ,図9でみた人種分布との相関を考察させる。ページをマウスで下にスクロールさせると図10が表示されるが,地図では年収20万ドル以上の高所得が水色,年収2.5万ドル未満の低所得がオレンジ色で示されている。生徒には,黒人,ヒスパニックの混在する北部のUpTownがそれ以外の地区に対し低所得の状況であることを読み取らせたい。

図11ホームレス生徒の分布

図12 犯罪発生地点

(5)社会状況を背景とした問題
 そしてこうした経済格差を背景とした問題の一例を示すため生徒には,New York City Interactive Map of Student Homelessnessの地図を考察させたい(図11)。地図には,地区の公立学校ごとのホームレス生徒の割合が示されている。実はニューヨークでは,世界同時不況以来,貧富の差が拡大しホームレス生徒の割合が高い学校が増えている。生徒には,前出の図の読み取りを踏まえ,黒人・ヒスパニックが混在し,低所得者も多い北部Uptownと,アジアの系多い南部Downtown南東端でそうした学校が多いことを読み取らせたい。

 またNYC crimemapというサイトで,社会の矛盾を反映すると言われる「治安の実態」を読み取らせたい。画面右のMapTypeで「Crime Location Map」を,Crime Typeで「all」,DateRange(期間)で過去1年間程の期間を設定させると,図12の地図が描画される。生徒には地域全域で犯罪発生の多い事実を読み取らせたい。

 先進国の都市では,経済・文化の発展をうかがわせる景観やダイナミックな人間の流動がみられ,それが都市の中心性も作り出す。ただ半面,格差とそれを背景にしたホームレス,治安の問題もある。この両面性を生徒には伝えたい。

3 発展途上地域の都市をみる

図13 ナイロビの位置確認

 (1)ナイロビの鳥瞰
次に発展途上地域の都市の例として,ケニアの首都・ナイロビを取り上げる。まず生徒には,GoogleEarthで「ナイロビ」を検索させその位置確認をさせる(図13)。そして中心の「ナイロビ駅」を見つけさせ,駅の北に広がる所にCBDがあること。周辺に工業地区,住宅地区, 6か所程のスラムがあることを確認する。

 

 

 

図14 ケニアの中のナイロビ・1

図14 ケニアの中のナイロビ・2

(2)ケニアの中のナイロビをみる
 その上で生徒には,スイス・ベルン大学開発環境センターのSocio-Economic Atlas of Kenyaの地図をみせたい。まず画面左のメニューでは「ケニアの47の郡」,管理レベルで「郡」を選択させる。図中の円は郡別の人口で,ナイロビは国内最大人口なので,それを目印に位置は確認させる。あとは右の指標メニューで様々な統計地図を描画させる。「水,衛生,エネルギー」にある「安全な水源へのアクセス」の地図で,安全な水のアクセスに恵まれていること。「家計資産」の地図で,土間で暮らす人々が少ないこと。「福祉と貧困」の「貧困発生率」の地図で,貧困発生率が低いこと。「経済活動」にある「非公式部門で働く人々」の地図で,インフォーマルセクターに就く人間割合が少ないことを読み取らせる。総じて,「相対的に恵まれている」ことが読み取れるはずである(図14)

図14 ケニアの中のナイロビ・3

図14 ケニアの中のナイロビ・4

図15 ナイロビ内部の不均等・1

図15 ナイロビ内部の不均等・2

(2)ナイロビ内部の不均等
 ただ都市問題は都市内部の光と影の問題であり,内部をみなければ実態は分からない。そこで次に生徒には,地図中のナイロビを拡大表示させ画面左のメニューで管理レベル「区」に設定させる。そして改めて,「水,衛生,エネルギー」の「安全でない水源へのアクセス」,「家計資産」の「土の床」,「福祉と貧困」の「貧困発生率」,「経済活動」の「非公式部門で働く人々」の地図を読み取らせる(図15)。生徒には,地区内にそれらの指標が低水準の場所のあることが確認できるだろう。一般に,発展途上地域の都市では周辺農村より優先的な投資が行われ,インフラはある程度は整備されている。ただ短期間で多くの人々が集中するため,地域内にはインフラの整備が間に合わない場所が生まれる。このことを,生徒には読み取らせたい。

図15 ナイロビ内部の不均等・3

図15 ナイロビ内部の不均等・4

図16 ナイロビCBDの中心

(3)ナイロビ内部の実態をみる
@ナイロビCBD

続いて生徒にはナイロビ内部の実態をみせたい。生徒には,再びGoogleEarthで「ナイロビ駅」で検索させ,ストリートビューで北の広い幹線道路の付近を見せる。ここはCBDの中心で,政府系機関を含む高層建築が多く,舗装された道幅の広い道路が読み取れるだろう(図16)

 

 

 

 続いてその北にある,同じCBD内のアクラ・ロード(Accra Rd)を見つけさせ,ストリートビュー見せる。ここでは,道路が多くの路上駐車や歩行者で埋めつくされ,車の通行もままならない様子。道路横の歩道にそって多くの商店,地面に土産物や古着,古本を広げて売る人々が読み取れるだろう(図17)。発展途上地域の都市のCBDでは過度な人口集積に対して,公共交通が未整備で,人々の自動車利用率が高く駐車場が不足している。そのため各所で路上駐車がみられ,そこから慢性的な交通渋滞が起きている。また就労不足からインフォーマルセクターに就く者も多い。そうした現状を生徒には読み取らせたい。

図17 アクラロード・1

図17 アクラロード・2

 図18 キベラスラム・1

 図18 キベラスラム・2

Aキベラスラム
続いて,CBD南西「外縁部」のキベラスラムを, GoogleEarthの検索で見つけさせ,ストリートビュー見せたい。ここはナイロビ人口の約半数が暮らすスラムである。生徒には,道路の両側に,沢山のトタン屋根の家,零細な商店があること。インフォーマルセクターであろう,靴,ドリンク,トマトなど色々な野菜果物を売ったり,荷車で水らしきものを運ぶ人々がいること。鉄道の線路が歩道のように使われ,線路わきにゴミが不法投棄されていることを読み取らせたい(図18)

 図18 キベラスラム・3

 図18 キベラスラム・4

5 まとめ

 以上のようにWebGISで先進国と発展途上地域の都市問題を具体的に考察させたあとは,生徒にはそれらの共通点と相違点を話し合せ,その特徴をまとめさせるとよいだろう。
またこのあとの授業の展開では,都市問題の解決に対して,世界の国々がどのような努力をしてきたのか。国際機関,NGO,民間企業等がどのような対応・支援をしているのかを生徒に調べさせ,その中の効果的と思われる政策・事業を生徒に発表させ,生徒自身に解決に向けた構想をさせるとよいと考える。


 
 

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