LWebGISで作図に触れさせよう

今回は,授業の中で可能な,「作図体験や統計地図の利用体験」をさせるためのWebGISの活用についてまとめました。

※7/27世界銀行のサイトについての記載を一部修正した。

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  • 1 はじめに

  • 2 作図体験の方法

  • 3(1)世界銀行マップで地球的課題の考察

  • 3(2)ひなたGISで地域課題の考察体験

  • 4 いろいろな統計地図に触れさせる

  • 5 まとめ

1 はじめに
 現行の高校地理B学習指導要領解説「(1)様々な地図と地理的技能 ア地理情報と地図」では,生徒に地図に関する基本知識や作図技能を身に付けることが重視されている。そのため,統計地図の学習支援に関しては,どこの高校でも,「分布図には原則として正積図法を使うもの」とか,「絶対値や相対値など数値の性格に応じて統計地図の種類を使い分ける」といった基本知識に関して手厚い指導が行われている。しかし,全国の知り合いの先生方から伺う話では,学習指導要領解説で必要性が強調されている肝心の「作図」について,本格的な作図演習を行っている学校は非常に少ない印象である。
 確かに統計地図の作図は,アナログ,デジタルいずれでやる場合でもある程度煩雑で,系統的な作図演習を高校の限られた時間で行うのは厳しい。したがってその点は,ある意味やむおえない面もあるのだろう。ただし生徒に,地理の重要な道具である統計地図の作図に触れさせることが重要なのは確かなので,私は,作図指導は授業の中で可能な,「作図体験や統計地図の利用体験」をさせることを軸に進める必要があるのだと思う。

2 作図体験の方法

生徒に作図体験や利用体験をさせる場合,それにはアナログとデジタルの二つの方法がある。前者は,作業手順が比較的単純な階級区分図などに絞り,手作業で作図を体験させる方法である。教科書にもたいてい統計地図の作業欄は掲載されているので,それらを活用すればその方法は容易である。この方法を通し,基本的な作図ルールを,時間をかけて気付かせるのも,ある程度可能である。
ただ現代の作図は,デジタル化が主流である。そのため私は,所属校のPC環境やタブレット端末の使用環境が整っている学校では,アナログ的な手法だけでなく,汎用GISやWebGISで統計地図の作図に触れさせる機会を生徒に与えることも必要と考える。地理の事後の学習の時や,将来,生徒が簡単な統計地図を作る必要に迫られた時に,そうしたツールに触れておけば生徒も,「授業でやっていてよかった」となる。もちろんこうした作図体験や利用体験の授業ではMANDARAなど汎用GISの活用も考えられる。しかし今回は,現場での導入がより容易なWebGISを使った方法を提案したいと考える。

3 地球や地域の課題考察にも使える統計地図

(1)世界銀行「マップ」で地球的課題の考察


 まず私が階級区分図と図形表現図の学習指導で有用と考えるのは,The World Bank(世界銀行)のIndicatorsである。ここでは持続可能な世界の建設にかかわる膨大な数の統計指標の全てが地図化できる。生徒にPCやタブレットなどでこのサイトを扱わせるときは,サイト自体をGoogle翻訳などで自動翻訳できるようにしてそれを利用するとよい。カテゴリーごとに整理された指標名から任意のものを選択しクリックすると該当ページに直接ジャンプする。生徒にはそこで,特定の絶対値と相対値の2種類の統計指標のページを指示して表示させる。たとえば「援助の必要性」カテゴリーにある「5歳未満の子供の栄養失調率」と「政府開発援助の受益額」である。(図1)
      

       

         図1 世界銀行indicatorsの指標メニュー(自動翻訳済)

そしてページが表示されたら下の「map」ボタンをクリックさせ地図表示させる。最初地図はすべて階級区分図で表示される。地図が表示されない時は,最新の統計データが欠落している場合なので,そのときは地図下のゲージを左にずらし,より古い年次の地図を表示させる。また地図は,配色が薄い水色で少し見にくいので,左側の「+-」のゲージで適正な大きさに調整させる。こうした指示だけで生徒は地図を容易に表示できる(図2,3)

 

図2 5歳未満の死亡率           

図3 ODAの受益額

もちろん生徒には, 2つの地図について階級区分図と図形表現図,どちらの表現が正しいかを判断させる。地図左上のshadedで階級区分図,pointsで図形表現図が選択できるので,そのボタンで適切な選択をさせる。適当なタイミングで教師が数名の生徒を指名し,どちらの選択をしたかを確認し ,「適切な表現」を確認する(図4)            

       

   図4 適切な表現    注)図中の水色はプラス,赤色はマイナスを示す。    

なおこのサイトは,「地球的課題を読み取らせる時に大変有用」なので,生徒には簡単な利用体験もさせたい。例えば前述した2つの統計地図などで,「子供の死亡率が高い国はアフリカのサハラ南部の国に集中するが,ODAを多く受け入れている国はインドなどアジアにも多い」といった読み取りなどをさせるとよい。  

3 地球や地域の課題考察にも使える統計地図

(2)ひなたGISで地域課題の考察体験


 一方,国内の地域課題を考察するときに有用な統計地図サイトに,「ひなたGIS」がある。これは,宮崎県職員が独自に作成したサイトでまだ未整備だが,現状でも都道府県単位の地域性や地域課題の考察に十分使えるサイトである。経済産業省と内閣官房のRESAS(リーサス),総務省のe-statというサイトの統計データを援用した統合型のGISで,地理院地図を背景図に置くこともできる。地図が,統計の絶対値と相対値にかかわらず全て階級区分図で描画される欠点があるが, 都道府県単位の地域課題の考察に非常に有用なので,その「注意」をした上で,生徒には利用体験させたい。
 図4 ひなたGIS
 生徒にこのサイトを操作させる場合,まず画面左上のボタンのうち「統計」をクリックして,RESASか統計局e-statを選ばせる。実質はほとんどの指標が,統計局e-statに集中しているので,それを選択させるとよい。あとはその直後に表示される設定メニューの「都道府県」で学校のある自治体名などを選ばせ,「統計表を選択」で指標名を選ばせる。これだけで市町村別の階級区分図が表示される。生徒にはこうした基本操作を確認したあと,例えば「群馬県の高齢化の現状を,このサイトで調べよう」と指示すれば,様々な地図を描画し,そこから多くの情報を引き出すだろう(図5,図6)。地図上で自治体をクリックすれば名称と数値が表示されるので,生徒も特徴のある自治体が見つけやすい。事前にワークシートを配布し,見つけた統計地図の名前と,読み取り結果を書き取らせるなどすれば,生徒の作業把握もできる。    

         

     図5 市町村別高齢者数          

           

      図6 市町村別医師数

4 いろいろな統計地図に触れさせる

(1)流線図

 流線図は,地物の移動方向と移動量を視覚的に表現できるすぐれた統計地図である。この体験学習に関しては,オレゴン州立大学のあるグループが作成した「アメリカの2009-2013の移民」というWebGISが有用である。サイトは英文サイトなので,授業で活用する際には,まず生徒にはブラウザの翻訳機能でサイトを日本語表示させる。初期画面では,州別の人口密度図が背景にあり,その上に各州間の移動が矢印で示されるが,人口規模で上位100位の矢印のみが表示されている。右側メニューで「上位10位の流れ」や,画面下メニューで「TOTAL FLOW」を選択すれば,より全体の傾向が捉えやすくなるので,生徒にはそうした操作をさせ,図の特徴を読み取らせたい。地図上で特徴のある州をクリックすればやはり,州名や流入人口(MOVED IN)と流出人口(MOVED OUT)が表示される。生徒も容易に,ニューヨーク州からフロリダ州,カリフォルニア州からテキサス州の州間での人口移動が多いことなどの特徴が読み取れると思う(図8)。

    

   

     図8 アメリカの2009-2013の移民

(2)ドットマップ
 ドットマップは,特定の地物の絶対数と空間分布とを同時に視覚化できる地図表現である。この地図の体験学習ではアメリカの2010年の人種分布を示す2つのサイトが有用である。一つはアメリカ本土の人種分布について,一人を一点として地図上にプロットしたバージニア大学の「Radical Dot Map(図9)。一つは, Dat Nguyen氏が同様のルールで作成した「City of Sugar Land Dot Map」である。後者では人口急増が進むテキサス州シュガーランド市の人種分布が示されている(図10)
 生徒に提示する場合はまず,前者のサイトを表示させ,マウスで地図を触らせながら,アメリカ全域の人種分布について大観させる。そこで生徒は南部に黒人が多いことや,太平洋岸でアジア系が多いこと,テキサス州でヒスパニックが多いことを容易に読み取るだろう(図9)。 続いて後者のサイトを見せる時は,まずは背景地図が薄く見ずらいのでサイト左上の「ベースマップ」のメニューから衛星画像を選ばせる。また下の「凡例」をクリックして凡例表示をさせる。あとは自由に地図を拡大・縮小させ考察させる中で,生徒は小地域スケールでみると,最も多い白人の集中地区とは異なり,黒人の集住地区や,アジア系,黒人,ヒスパニックの混在地区があることなど,多くの読み取りができると思われる(図10)

 

  図9 Radical Dot Map

  図10 City of Sugar Land Dot Map

 (3)メッシュマップ
 メッシュマップは,地表面に方眼線をかけて正方形の単位に区切り(実際は長方形),その区域ごとに統計数値の大小を示す地図である。メッシュには1kmメッシュ,500mメッシュ,250mメッシュなどがあり,小さなメッシュほど,小スケールの地域分析に有用である。メッシュマップは近年,国内の地域分析でよく使われる統計地図なので生徒には是非その有用性を示したい。私が現在その体験学習において有用と考えるのは,総務省統計局「地図で見る統計(jSTAT MAP)」である。このサイトでは町丁別の階級区分図も描画でき,本格的な活用をする場合には実は,前にあげた「ひなたGIS」や「RESAS」よりも地域分析で大きな力を発揮する。  
このサイトを生徒に提示せるときは,まず初期画面の設定メニューにある「ログインしないでGISをはじめる」をクリックさせる。そしてたとえば背景図のGoogleマップの中心が,自分の学校のある付近になるよう地図をドラッグして位置調整させる。その背景図は,色調が薄いので場合によっては,画面右上の「Googleマップ」の表示をGoogle航空写真に変えてもよいだろう。
 あとは左上のツールバーにある「統計地図作成」で統計グラフ作成を選択させ,すぐに表示される設定メニューで統計指標と,メッシュの種類などを設定させればよい。たとえば「統計調査(集計)」で国勢調査,「年」で2015年,「統計種類」で5次メッシュ(250mメッシュ)を選ぶ。さらに「統計表」で,その1・人口等基本集計に関する事項,「指標」で65歳以上人口総数を選ぶ(図11)。すると別の設定画面が表示されるが,設定画面で「集計単位」をメッシュとして,「集計開始」ボタンをクリックすれば自動的に地図が作られる(図12)。 背景図の航空写真を頼りにそれぞれのメッシュの特徴のある区画の位置を同定することもできる。例えば生徒は,「学校の南側の住宅地が高齢者の多いところ」だといったことを容易に読み取るだろう。
         

          図11 jSTATmap設定

    

     図12 高齢者人口の人口分布
 (4)等値線図
等値線図は,気温,気圧などの観測値,さくら開花日,ある地点からの時間距離などの指標について,観測地点の数値をもとに,同じ数値をもつ地点を予測し曲線で結んだ地図である。線分の間を,着色・パターン分けするなど工夫したものも多く,数値の分布を視覚的にとらえる上で有用なツールである。
私はまず,この等値線図の指導では,その意義に気付かせることが重要だと考える。そこでまず事前に私が生徒に見せたいと考えるのが「wundermap」というWebGISである。このサイトでは,世界中の観測地点の過去1時間の気象データを数値のまま地図上に示す形式になっており,等値線図の形式にはなっていない。授業ではまず生徒にこのサイトにアクセスさせ,画面中の地図をマウスで操作して,自分の暮らす都道府県付近に中心がくるように拡大表示させる。初期状態で,平均気温の分布が示されるようになっているが,その地図で生徒には気温分布の特徴を読み取らせたい。おそらく気温の高いポイントが,千葉県の房総のあたりや前橋の付近にあるといつた部分的な読み取りになると思われる(図13)
その確認作業のあとすぐに生徒にみせたいのは, 気象庁ホームページの「防災情報」の中にある「推計気象分布」である。これは過去3日間の気象観測値の分布を等値線図として視覚化した地図である。生徒には,このページにアクセスさせ,例えば「地域選択」群馬県を選択させて,読み取りを行わせる。おそらく,生徒はここでは,「気温は,群馬県の北側山間部が低く,南東平地部が高く,差が10度以上もある」といった,面的な広がりを意識した特徴を読み取れるものと考える(図14)
この読み取り後は,等値線図が,観測地点間の数値を,地点間の数値が均質に分布している前提で作られていることをあげ,これも点データを面的に読み取れるようにするための工夫の一つであるとして締くくりたい。
         

        図13 wundermap

    

      図14 推計気象分布

5 まとめ

 以上は,WebGISを使って生徒に統計地図の作図体験,利用体験をさせるときの私の提案である。ウェブ上で作図ができるWebGIS自体はまだほとんどないが,現状でもWebGISを使い以上のような授業が可能である点を知っていただけるとありがたい。
 
 

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