1 はじめに
次期学習指導要領で必履修科目として新設される地理総合の柱の一つにグローバル化がある。もちろん地理だけでなく,他の科目でもグローバル化は重要なキーワードである。JICA地球ひろばでは,この点について昨年度末から,教育現場への積極的な支援を進めようと,「映像資料を使いつつ,生徒との対話形式で授業ができるようにするための教材コンテンツ開発」を進めている。
私も,この事業に協力者の一人として参画し,「イスラム」と「難民」の二つのテーマで映像資料検討と,指導案作りを行った。それらはすでに地球ひろばのサイトやYouTubeで閲覧できるので,適宜ご利用いただければと考える。ただしそのコンテンツは,地理だけでなく,世界史,日本史,現代社会でも活用できる汎用性をもたせたものである。そのため地図やグラフを使った考察といった地理本来の手法は抑えている。そこで今回は,「難民」について高校地理で扱う場合にどのような展開が可能かという一つの案を示したい。授業は6人一組のグループ学習で2時間ほどを想定している。
6 シリア難民を日本は受け入れるべきか
以上の時間で,難民についての基本事項を確認させた後,最後は一時間使って,生徒に深い学びのためのロールプレイイングを行わせる。つまり日本には現在,難民の受け入れをもう少し積極的に行うべきとの国際的批判があるが,6人一組のグループをつくる生徒一人一人が,それぞれ異なる立場になりきり,日本が今後難民の受け入れをどうするべきかを考えさせる。各グループで進行役を決めさせ,結論を出させるが,互いの意見を否定しないというルールは徹底する。最初,それぞれの生徒には,以下のセリフを自己紹介代わりに話させ,それを話し合いの端緒とさせる。
※ロールプレイイングゲームについては開発教育協会(DEAR)の
サイトのこちらのページが参考になります。どうぞご覧ください。 |
1) NGO職員A
ヨーロッパだけで難民を受け入れるのは,人的・資金的な面ですでに限界です。日本には先進国としての責任があります。資金面の支援だけでなく,現状ではほとんどしていない難民受け入れをさらに拡大してほしいと思います。 |
2)日本の高校生B
受け入れには反対です。日本は,まだ震災の復興すら完了していません。外国人の幸福よりも日本人の幸福を優先してほしいと思います。税金は,少子化対策など日本国民のために使うべきです。 |
3)企業経営者C
現在の日本は少子化で労働人口の減少が深刻です。難民を労働力として日本に迎い入れれば,国の経済にプラスになります。シリア人は,教育レベルも高く英語を話せる人達が多いと聞きます。 |
4)ドイツ国民D
これまで私たちの国は善意から沢山の難民を受け入れてきました。しかし大量の難民を受け入れたため,国内では文化的摩擦や衝突に伴う犯罪の増加やテロの危険性が大きくなりました。日本も,難民の受け入れは慎重に考えたほうがよいです。 |
5)シリア難民E
日本には, 今以上に多くの難民を多く受け入れてほしいと思います。また私たちが母国に戻れるよう,日本政府には問題の解決,内政の安定化にむけて国際社会にもっと発言してほしいと思います。是非,私たちを助けてください。 |
ロールプレイイングは基本オープンエンドである。したがって,それぞれのグループが,どのような結論を出すのかは分からない。しかし,こうした議論がきっかけとなり,それが少なからず生徒が,遠い存在だった難民について真面目に考えるきっかけになるとなればと考える。