Hカルトグラムを授業で使おう

   

非連続性カルトグラムを比較的容易に作成できるScapetoadの使用法と活用について独自の方法をまとめています。この記事を作成したあと,Worldmapperのサイトは更新され,地図は新しいものになりましたが,更新後もScapeToadと同じアルゴリズムが使われています。

  • 1 はじめに

  • 2  カルトグラムを作る

  • 3 カルトグラムを使う

1 はじめに
 カルトグラムは,人口や移動時間などの絶対値や,一人当たりのGNIなどの相対値に比例させて,地図上にある国や自治体の面積,特定の2地点間の距離を歪めた変形地図である。面積カルトグラムと距離カルトグラムがとあるが,とくに前者は,様々な地理的事象の分布の傾向や地域性を分かりやすく可視化するため,生徒の学習支援の道具として大変有用である。視覚的インパクトも大きく,様々な学習分野の導入部分や,生徒に印象付けたい項目での活用に効果的である。

 私自身も,そうした考えから,今まで幾つかの学習項目でカルトグラムを活用してきた。私が比較的よく使用してきたのは,インターネット上の既成のカルトグラムで,アメリカミシガン大学のNewman氏やシェフィールド大学の学術グループが共同で運営するサイト「Worldmapper」で公開するカルトグラムである。このサイトのカルトグラムは,一つの国を長方形などの図形で表す簡易的な非連続面積カルトグラムと違って,地域境界・隣接関係を反映している連続面積カルトグラムの方式を採用している。そのため「読図」向きのカルトグラムであると考える。

                

 このサイトでは,約700ものカルトグラムがpdf,png形式で公開されているだけでなく,図のカテゴリーが大変豊富である。つまり,Basic(基本統計)・Movement(国際的な人口移動)・Transport(輸送)・Food(食料)・Goods(資源の輸出入)・Manufacturers(工業製品の輸出入)・Services(サービスの輸出入)・Resources(地下水・森林)・Fuel (電力・エネルギー資源)・Production(生産者)・Work(労働・雇用)・Income(所得)・Wealth(富の大きさ)・Poverty(貧困)・Housing(住居)・Education(教育)・Health(健康)・Disease(病気)・Disaster(災害)・Death(死)・Destruction(生物種の危機)・Violence(戦争・紛争)・Pollution(環境汚染)・Depletion(資源の枯渇)・Communication(通信)・Exploitation(南北問題)・Action(国際的な動き)・Cause of Death(死亡原因)・Age of Death(死亡年齢)・Religion(宗教)・Language(言語)・Sport/Leisure(スポーツ・レクリエーション) などのカテゴリーが用意されている。
 例えば「交通・通信」の授業の時,私は,ここの鉄道貨物輸送量のカルトグラムを使って,生徒たちに「国土面積が大きい国で,輸送量が大きい傾向があること」を考察させたり,インターネット利用者数のカルトグラムから,「アジア圏を中心に利用者が多いこと」を考察させるなどしてきた。

 

 図2 鉄道の貨物輸送量のカルトグラム(2002年)                 図3 インターネット利用者数のカルトグラム(2002年)

 

 ただ残念ながら2017年現在,このWorldmapperのカルトグラムは最新の統計年次でも2002年前後と「古い」ものが大部分になっているため,「現在の地理的事象」を考察させる場面では,授業での活用が難しくなっている。
 しかしそうした一方で近年,チューリッヒ工科大学が中心に開発したオープンソースソフトウェアのScapeToad や,QGISのCartogramプラグインなどの汎用GISソフトが登場し,カルトグラムの作図のハードルが以前と比べてかなり低くなっている。とくにScapetoadは,Worldmapperと同じ2004年発表されたガストナー/ニューマン氏のアルゴリズム(算法)に依拠しており,Worldmapperと外観がよく似たカルトグラムが作れる。これまでWorldmapperに親しんできた者にとっては,違和感がないカルトグラムである。そこで今回は,そのScapeToadを活用して,地理授業に使えるカルトグラムを自作し,利用する方法を考えてみた。

 ※QGISのCartogramプラグインの使用方法については Cartogramプラグインを使ってみた : 山仕事に掲載されていますが,正直,ScapeToadよりも操作性が安定していなかったり,グローバルスケ  ールのカルトグラム作成ができないことが多かったりします。

2 カルドグラムを作る

 カルトグラムを作図する上ではまず,それを通して生徒に,「世界の何を大観させたいのか」が明確になっている必要がある。それは元となる主題図を作る時でも同じである。私は以前から各所で,主題図の基本データとして世界銀行データを使うことを提案してきたが,それは世界銀行統計がもともと,地球規模の問題にかかわる様々な指標の国別データを含むためである。私は,生徒には,地球規模の問題の数々に気付かせ,考える機会を与えていくべきだと考えている。そこでここでも,世界銀行統計からグローバルスケールのMANDARA統計地図を作り,そのデータを副次的に利用してカルトグラムを作る方法を考えた。

図4 統計地図データを作る・その1

(1)統計地図データを作る

まず作図には,パソコンをオンライン状態にして,公式サイトからMANDARAを入手しインストールしておく。さらにGEOLINKの「世界銀行統計からMANDARA地図をつくる」のページから「田中の自作コンテンツ」という圧縮ファイルを入手しておく。それを解凍するとすぐに「世界銀行MANDARA化」というフォルダが現れるが,中には「世界銀行」と「data」という二つのExcelファイルが入っている。まずそのうち「世界銀行」というExcelファイルを開いて,1枚目のシートの指標一覧から任意の指標を選ぶ。そしてそのリンク先ページから「世界銀行の統計データ」をExcel形式で入手する。あとはそのExcelファイルの名前を「data」に変えて, 「世界銀行MANDARA化」というフォルダ内に入れる。中にはもともと同名のファイルがあるので上書き保存という形になる。
 次に「世界銀行」というファイルの3枚目のシートを開き,そこのオレンジ色のボタンで「世界地図フォーマット」を入手する。これらはあらかじめNatural Earthの国境線データと,世界銀行の統計データを使って作ったMANDARA地図のファイルである。メルカトル,ミラー,サンソン,ランベルト正積,正距円筒といった5つの図法を用意してある。ただしランベルト正積図法と正距円筒図法で作業を進めた場合,何故か,このあとのカルトグラムの作図過程でエラーがでるため,ここでは二つの図法以外のものを選択する。そしてそれが終わったら,同じ3枚目のシートにある「MANDARA用データ入手」というボタンをクリックして,「自動的にMANDARA地図用に変換されたデータ」をクリップボードコピーする。

 

図5 統計地図データを作る・その2

 そのあと世界地図フォーマットのMANDARAファイルを開いて,MANDARAのツールバーのところから「ファイル→属性編集→属性編集」とクリックをすすめる。属性編集の画面になったら,左上の「タイトル」という所にマウスポインタをおき,右クリックし,表示された選択メニューから「貼り付け」を選択して,さきほどクリップボードコピーしておいた統計データを流し込む。あとは属性編集画面の右上にあるOKボタンを押せば,MANDARA統計地図の元データが完成である。
  あとはMANDARAのツールバーの「ファイル」をクリックして,選択メニューの「シェイプファイル」→「シェイプファイル出力」で,地図データをshapefile化すればよい。Shapefileの名前は任意の名前にする。

 

図6 カルトグラムを作る

(2)ScapeToadによるカルトグラム作成
 続いてはScapeToadの公式サイトの「download」ページにアクセスし, 自分のパソコンのプラットフォームに応じたソフトをダウンロードする。パソコンがWindowsならば,「ScapeToad for Windows .exe (32-bit) [zip]」を選択する。解凍したファルダ内には, 「ScapeToad.exe」というファイルがあるが,これをクリックするとスタンドアローンで,直接ソフトが起動する。
起動後,先ほどの(1)で作ったshapefileを, ScapeToadの「Add layer」で選択すると,世界地図が描画される。通常に世界地図が表示されたら,上のツールバーの「create cartogram」のボタンをクリックし「Cartogram creation wizard」を起動させる。右上に作業順が1〜6の番号で示されるが,作業1・2と4は右下の「Next >」をクリックしてやりすごす。作業3は「Cartogram attibute (属性)」で自分が地図化したい「年次」を選択し,「Attribute type (属性タイプ)」を基本的には「mass」に設定する。また作業5は「Transportation quality」のゲージ操作で画像精度を調整する。この作業5のところで,右下の「compute(計算)」ボタンをクリックすると自動的に作業6がはじまり,しばらくしてカルトグラムが完成する。

3 カルトグラムを使う

図7 2013年の国別二酸化炭素排出量

(1)単純な読み取り

 続いて,以上のように作ったカルトグラムで生徒にどのような考察をさせられるのかシミュレーションしてみたい。
まず第一にカルトグラムで生徒に読み取らせなければならないのは,国ごとの統計数値が大きく「肥大」している所と「萎縮」している所がどのような国・地域なのかという点である。これを具体的に「二酸化炭素の排出量のカルトグラム」で考えた場合,生徒に読み取らせるのは,地図が肥大している所は,中国,インドなどの国と, アメリカ,ヨーロッパ,日本であること。さらに地図が萎縮している所はアフリカのサヘル以南の国々であるといったことである。
 またその読み取りの次は,それぞれの国や地域で地図が,「肥大」あるいは「萎縮」している要因・理由をグループで考えさせたい。生徒たちからは,中国とインドは人口規模が大きく,1990年代以降安い石炭資源に依存して工業化が進んだため二酸化炭素の排出量が大きいのだろうとか。アメリカ,ヨーロッパ,日本も工業化・モータリゼーションのため,二酸化炭素の排出量が大きいのだろうとか。アフリカのサヘル以南については,工業・モータリゼーションも発達していないため二酸化炭素の排出量が少なく地図が萎縮しているのだろうといった答えがでてくるものと想定される。ただし生徒は,大人が考えもしないことを発想する力をもっているので,この場面ではその声を大切にしたい。

 

図8 1970年(左)と2013年(右)の国別二酸化炭素排出量

(2)新旧比較から変化の要因を考察
 また今回使用している世界銀行統計では1961年から現在までの年次ごとのデータが利用できる。つまり任意の年次のカルトグラムを作った新旧比較もできるので,その授業展開も考えられる。
二つのカルトグラムでは凡例が異なっているので単純な「大きさ」だけの比較はできない。ただ生徒に新旧のカルトグラムを比較させた場合,二つの年次の間に起きた変化を推察させることはできる。つまりまずは「矮小化している地域」と「肥大化している地域」を考察させるとよい。例えば,1970と2013年の国別二酸化炭素排出量で考えさせる場合,生徒には,1970年にはアメリカ,ヨーロッパ,日本などの先進工業地域が大きかったのが,2013年では矮小化していること。また中国が極端に肥大化しているといった二つの大きな変化を読み取らせるとよい。
もちろん,その「矮小化」と「肥大化」といった変化の要因や背景を,生徒に考察させる活動も必要である。これもグループで検討をさせる中で,先進工業地域の矮小化は,CO2対策が進んだため。中国やインドの肥大化は,経済発展が進んだため,あるいは CO2対策を十分とらない状態で安いエネルギー資源である石炭を大量消費しているからといった意見などがでてくることが想定できる。意見が出てこない場合は,もちろん教員から様々な情報提供をしていく必要があるだろうと考える。
 そして最後,生徒に世界全体を俯瞰させて,「矮小化」に成功した先進工業地域が,「肥大化」している中国・インドに対してできる支援はあるのかといったことも考察させるとよい。地球規模で持続可能な社会を形成していくという観点に立った場合,このような考察も必要である。先進工業国は,コジェネレーションシステムの普及支援,炭素税導入のための支援など環境対策で後発の国々を支えていくべきだといった「グローバルな視点」からの発想を生徒からは引き出させたい。

 

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