Eハザードマップ学習

 

2014年6月現任校2年のクラスを対象に行ったハザードマップ学習の授業実践です。

  • 1 身近な地域の小地形を考察させる

  • 2 小地形ごとの自然災害リスクの違い

  • 3 学校周辺のハザードマップを考察させる

  • 4 地元住民の知恵に学ぶ

  • 5 今後の展望

1 はじめに

 ここ数年,日本各地の学校では,ハザードマップを使った,様々な授業実践が行われている。このことは,自然を改変し生活空間を広げてきた我々が,今後いかにして自然と共生していくのかを,生徒達に考えさせる上で,大変意義のあることである。もちろん,こうしたハザードマップを使った授業には様々なパターンがあってよいと思う。ただ私自身は,地形学習の延長として,まず身近な地域の小地形幾つかを概観させ,次にそれらの自然リスクの差異を考察させ,最後にハザードマップを使った防災学習を行う手順を踏むのが理想と考えている。今回紹介するのは,そうした観点から私の行った授業実践である。対象生徒は,現任校の2年生である。

2 身近な地域の小地形を考察させるために「基盤地図情報」を使う。

前者の地図ではとくに,50m間隔の等高線と水域に着目させた。また後者のコンテンツでは,上空から滑空するイメージのフライトシミュレーターから地形景観を読み取らせた。さらに以前,小地形の授業で使ったプリントを参考にさせたが,生徒達は,意外とすんなりと小地形の名前を言い当てることができた。

 

授業は,「桐生市とその周辺」の小地形と自然災害リスクを,机を並べた3人を一組としたペアで考察させる形で行った。まず生徒には,@〜Bの3か所を左のようにGoogleEarth上で示しそれぞれの小地形の名前を考えさせた。左図は等高線(基盤地図情報から),水系(国土数値情報から),行政界(国土数値情報から)の基本的属性のみを表示させたベースマップに,GoogleEarth上で自分でポリゴンを描画して(バスの追加機能で)作成したものである。

 → このとき使ったGoogleEarthファイルはこちら

この時,生徒にはワークシートとして左図の様な,基盤地図情報と国土数値情報から作った基本図をのせたワークシートも配布した。左図は等高線,水系,行政界の基本的属性のみを表示させたベースマップに線形を入れて作成したものである。

 

 → このとき使ったワークシートはこちら

ここでは,@〜Bのエリアの中心付近をGoogleEarthのフライトシミュレーターで鳥瞰するイメージで,このファイルを生徒に見せた。

左側の画像は,そのときのイメージで,上から@,A,Bのそれぞれの部分を,フライトシミュレーターで鳥瞰視したときのものである。

→ このとき使ったGoogleEarthファイルはこちらである。まずGoogleEarthファイルを開いて,サイドメニューの「等高線」,「3つのエリア(透明)」を表示(細かな設定でご自分で試してください)します。それから「3つのエリア(透明)」の中の3つの無題パス(上から@ABのパス)にマウスポインタを置いて,下の「ツアーを再生」ボタンをクリックするとフライトシュミレーターが再生されます。

      

GoogleEarthによるフライトシミュレーターを見せることで,生徒たちはワークシートにある等高線,水系などの情報を現実の地形と対象させながら 考察することができた。生徒たちには,3人一組のペアをつくらせて,授業ノートなどを見ながら地形を考えるよう指示を出し,代表者に答えさせた。

@〜Bの小地形が何なのか,その代表者は的確に答えていた。

まず@に関しては,谷口にある緩傾斜の土地という点や, 河川がほとんどみられない点,同心円状の等高線から,「扇状地(大間々扇状地)」と結論づけた。

またAも,河川(渡良瀬川)沿いの等高線が少ない低平な土地という点,川が分流している様子,河川両岸の土手状の地形,河川流域の三日月湖らしい湖(阿佐美沼)から,「氾濫原」と結論づけた。

さらにBも, 山間を流れる河川(桐生川)沿いの等高線が少ない土地といった点から「谷底平野」と結論づけた。

3 小地形ごとの自然災害リスクの違い

続いて生徒には,ワークシートによって,国土数値情報データの「洪水時浸水予想水域」と,「土砂災害危険区域」の2つのレイヤを重ねた基本図を提示し,3つのエリアの自然災害リスクの違いを概観させた。やはり3人一組のペア学習で,考察作業を行わせた。

 

その時,生徒に配布したワークシートはこれである。

前出のワーシート内にあったベースマップに,国土数値情報の土砂災害危険箇所と,洪水時浸水区域のデータを地図表示したものである。

これも単純に地図の読み取り作業だったので,大半のペアはすぐに@を「自然災害リスクがあまりない場所」,Aが「洪水時浸水リスクが高い場所」,Bが「洪水時浸水リスクと土砂災害リスクの両方が高い場所」という読み取りをすることができた。ただ@に関しては,以前私が授業で,「扇状地は一般に土砂災害リスクが高い」と話した時の先入観から,自然災害のリスクが低いという事実に首をかしげる生徒もいた。そのため@では,かつて扇状地を作った渡良瀬川が後に,丘陵(八王子丘陵)の北に河道を変えたため,通常のパターンが当てはまらないことを指摘した。

         

3 学校周辺のハザードマップを考察させる

以上の考察から,自然災害リスクと地形に相関があることを具体的に確認させた上で,最後,生徒達には「防災教育」の観点から,2つの自然災害リスクが併存する要注意エリアであり,自分たちの学校が所在する最重要地域でもあるBについて,細かなハザードマップの考察を行わせた。

つまり左のようなワークシートで,「Bのエリアを拡大したハザードマップ」を生徒に示し,自然災害リスクが高い地点を考察させた。考察途中で机間巡視をする中で,はじめは「川や山の近くでリスクが高い」と漠然とした答えを考えていたペアが多かったが,「より具体的に」という指示を徹底する中で,「建物が密集する桐生川が湾曲する地点で洪水時の浸水リスクが,谷底平野の東西に位置する山の裾部で土砂災害リスクが高い」ことを確認させることができた。

このとき使ったワークシートがこれである。

 

 

 

 

そして最後,生徒全員に地図上に通学路を赤ペンで描き込ませた所で,「通学・下校時に,大雨や巨大台風が襲来し,自然災害リスクが高まった時の身の処し方」をテーマに考察させた。

これについては,「山と川に近づかず,マップ上のリスク範囲からはずれたルートをたどって避難する」という「無難な」答えが多かった。

そこでそのあと,避難ルート上に「リスクが高いところはないのだろうか」と投げかけて,○をつけさせ,それを改めて見て,ほんとうにこの避難路で大丈夫だろうかと生徒に投げかけた。そしてさらに実際には,災害リスクが想定外の範囲に及ぶこともある。その場合はどう対処するのか。」と,生徒に再度投げかけた。

 

その上でそして「考えるヒント」として,地元自治会のある取り組みを紹介した。

 

4 学校周辺の地元住民の知恵に学ばせる

私が,自然災害に備えた行動について現実的な対処ができない生徒に対して示したのは,「桐生市菱町をモデルにした地域防災力向上の取り組み状況と今後の課題」( 渡良瀬川河川事務所 調査課 大島 秀則)という報告書に掲載されていた,地元住民の取り組みである。

上の写真は,学校対岸にある菱町側からみた桐生川である。菱町という町の複数の自治会では,元々の自然災害リスクの高さから,住民の危機意識が高く,数年前から,「わが家の防災マップづくり書き方講習会」というワークショップを開催している。そこでは,参加者が地図上に自宅や避難所のシールを貼ったり,洪水時の予測浸水深や避難時の危険箇所の書き込みを行い,防災上の危険箇所の洗い出しや,避難路の確認作業を行っている。

実は,桐生川を隔てて学校対岸にあるある自治会では,その取り組みの中で,距離や地形的に不利な地点の水害時避難場所をすべて別の施設に変更した。また避難経路が浸水した場合に備え,「一時的な避難場所の確保」が必要だということになり,町内3階建て以上の鉄筋コンクリートの建物所有者に,緊急時の「水害避難協力の家」になってもらうなどの対策とった自治会もあった。

こうした身近な例を示した上で私は再度,生徒達に「想定外の自然災害への対処」を検討させた。

すると生徒たちからは,「学校の校舎からしばらく出ない」,「上層階をもつ建物に一時避難させてもらう」などのより現実的な答えが出てきた。

地元住民の知恵に学んだ格好となったのである。そして,こうした「自然災害への対処のイメージ」ができたところで,今回の私の授業は終了とした。 ハザードマップを考察させる。

6 今後の展望


私は今回の授業には正直,まだまだ発展の余地があると考えている。将来的には,地元自治会がやったように,避難施設の位置や,通学途中にある,一時的避難に使えそうな「3階建て以上の鉄筋コンクリートの建物」を,放課後の時間を使って調べさせ,ハザードマップに書き込ませる。そしてそれをもとに,自然災害時の避難シミュレーションを立てさせるといった授業実践にも挑戦していけたらと考える。

ところで,この授業実践の一週間後,台風通過にともない桐生地区では広範囲にわたり大雨が降った。学校周りの水路からは水が溢れ,校庭も駐車場も水浸しになった。付近の川でも洪水リスクが高まる事態が発生し,生徒の登下校の対応にひやひやさせられた。改めて,学校での自然災害リスクの学習の必要性を,生徒ともども痛感させられた。

 

左の写真は,今回の授業実践をおこなったすぐあとに日本上陸した台風号が過ぎ去ったあとの増水した渡良瀬川である(2015年7月17日)。

 

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