CGoogleEarthでみる平城京

  

今回紹介するのは,昨年私が日本史Bを担当した時に,「平城京の時代」という学習項目で行ったGIS活用実践である。日本史を担当したのは,約10年ぶりだったが,この項目に関して私は,GISを使った地理的手法を使うことで,平城京という「地域」に焦点をあてて,生徒に,当時の為政者の考え,社会の様子,原風景を,より分かりやすく考察させられるのではと考えた。そして,そうした発想から組み立てていったのが,今回の授業だった。

ブログ・地理屋にできること

  • 1 3つのコンテンツ 

  • 2 平城京をイメージさせる

  • 3 立地を考察・推察させる

  • 4 都市空間を考察・推察させる 

  • 5 平城京のイメージは変わったか

1 GoogleEathコンテンツをつくる

 今回の実践で使用した教材は,基本的には自作のGoogleEarthコンテンツを活用したものである。コンテンツの元データでは,自然環境関連では,GoogleEarthの標準機能と,国土交通省公式サイトの国土数値情報などのオープンデータを活用した。また社会環境関連では,千年以上前のインフラ,豪族の勢力図,街路網,貴族の居住地などのオープンデータは存在しないため,ウェブサイト内の資料や歴史報告書,資料集の主題図や統計データを加工する形で活用した。

【GoogleEarthコンテンツ】・・・以下からダウンロードできます

(1)政治都市「平城京」をイメージさせる

(2)平城京の立地を考察させる

(3)平城京という都市空間を考察させる

2 PowerPointにコンテンツを収斂させる

 ただし授業の中で,GoogleEarthを立ち上げて,ライブでそうしたコンテンツを生徒たちにみせる場合,かなりの時間ロスが予想される。またパソコンのコンディション,学校でのオンライン接続状況などによってまったくコンテツが使えなくなる リスクもある。そのため私は,事前にGoogleErthコンテンツを自分で操作している所を,動画キャプチャソフト(Hypercam3という有料ソフト)で動画にしておき,それをパワーポイントに貼り付けて,授業の中で生徒に見せる方法をとった。PowerPointには,授業の流れをつくるテキストをあらかじめいれておき,その中にGoogleEarthコンテンツの操作画面を動画キャプチャしたものを挿入しておいた。この方式のメリットとしては,すべてをPowerPointコンテンツに収斂させることで,PowerPointを軸に授業の流れをつくることができるという点である。

 授業ではGoogleEarthの操作画面を事前に,Hypercam3という動画キャプチャソフト(有償)を使って動画ファイルにして,それをPowerpoint上に貼り付けて利用しました。動画については,ファイル容量が膨大になるため,イメージ画像(静止画像)を貼り付けてあります。実際の授業は,PowerPoint上に提示したテキストやGoogleEarth画像を生徒にみせて,様々な考察をさせたので,実際の授業をイメージしていただくのに有用であると考えます。

【PowerPointコンテンツ】・・・以下からダウンロードできます。

 

3 ワークシートを用意する

 授業は,教師のプレゼン方式の授業であれば,上のようなコンテンツだけでも成立する。ただし授業の中で「考察」をさせる上では,生徒に「ワークシート」を事前に配布し,もたせておくのが理想である。私の授業実践の中でも,生徒が,考察の流れをしっかり理解できるようにとの趣旨から「Word形式」でプリントを用意した。以下は,それをpdfに加工したものである。

【生徒配布のワークシート】・・・以下からダウンロードできます。

授業の中で使用したワークシート

●政治都市「平城京」をイメージさせる  

 私が,授業の導入場面で使ったのは,古都・平城京の政治都市としての姿と,そのスケールを読み取らせるためのGoogleEarthコンテンツである。

 それは平成20年度奈良県立教育研究所研究紀要の「郷土奈良を愛する心を育てる日本史学習(榊原賢治氏)」の地図を参考に,地図太郎で条坊制を示す街路と,大内裏,市,寺院などの地物を描画して作ったものだった。生徒にはまずこのコンテンツで, 平城京の東西にのびる条と,南北にのびる坊の街路を時間差で示し,政治都市特有の「計画的都市づくり」を概観させた。また背景の衛星画像に反映された「現在の町並み」との対比で,平城京の規模を視覚的に確認させた。またGoogleEarthの「距離の計測機能」で,平城京が南北約5km,東西約6kmの大きさであることを示した。生徒には,平城京のよりリアルなスケールと,計画性を実感されられたと考える。

 

【 政治都市「平城京」をイメージさせる 】のために作成したGoogleEarthコンテンツ(前出のものと同じ)

平城京のスケールと計画性

 

 

●「平城京」の立地を考察させる

1 現在地の確認

まず私がやったのは,「平城京」が現在の行政的位置ではどのあたりにあるのかという,確認。つまりは,「現在」との同定である。

2 自然環境の考察・推察 

 そして続いて生徒たちに考察させたのは,平城京がどのような小地形の上に立地しているのかという点である。一般に平城京の立地は風水思想によるとされている(そのことも触れた)。ただ私は,生徒には客観的な立地環境を考察させたかった。したがってまずは,どのような自然環境の土地に立地していたのかを考察させた。つまりGoogleEarth上で, 平城京を東西,南北に横切るライン上をフライトシュミレーターで鳥瞰させ,断面図の表示機能で地形特徴を概観させた。そうする中で生徒には,平城京が低平な盆地に立地していることを読み取らせ,さらにそこから寒暖の差が大きい盆地性気候であることを推察させた。

 

 

 続いて生徒達に考察・推察させたのは,平城京の自然災害リスクである。平城京は震災や洪水などにみまわれることが多かったということが,教科書などにもでてきたので,現代の資料をもとに「推察」させることはできるのではないかと考えたのである。

 まずは洪水リスクであるが,偶然,この授業実践の前年に,国土交通省公式サイトの国土数値情報に「浸水想定区域データ」がアップされていたので,その平城京の付近のデータをを使用した。つまりMANDARAで加工して作ったGoogleEarthコンテンツで,水害リスクの観点から地域を考察させた。そうした中で生徒には,平城京が洪水時の浸水リスクが大きい氾濫原にあることを読み取らせた。またそこから当時,屎尿・生活排水が,道路の両端の側溝を流れていたエピソードを紹介し,洪水の時には,糞尿が町中に溢れ出し極めて不衛生となり,伝染病が流行しやすかったことも推察させた。

 

 また地震の震災リスクも考察させたいと考え,サイトから入手できるGoogleEarth形式の「地震ハザードマップ」を使い,平城京の付近が,震災リスクが極めて高い場所にあることも考察させた。

 

以上から,生徒には,平城京が,自然環境面では必ずしも恵まれた場所に立地していたとは言えないことを,読み取らせることができたのではないかと考える。

【 平城京の立地を考察させる(自然環境) 】のために作成したGoogleEarthコンテンツ(前出のものと同じ)

平城京の鳥瞰と地形イメージ

平城京の浸水想定区域

3 社会環境の考察・推察 

 続けて私が生徒に考察させたのは,平城京がどのような社会環境の土地に立地していたのかという点である。この点ではまず,日本地図スケールで官道の交通網を示したGoogleEarthコンテンツを生徒に示した。そして教科書の「五畿七道」の図と対比して見させ,平城京が日本各地へのアクセスに恵まれた地点にあったことを読み取らせた。

【 平城京の立地を考察させる(社会環境) 】のために作成したGoogleEarthコンテンツ(前出のものと同じ)

官道

  また資料集の地図を参考に作った,中央豪族の勢力範囲をまとめたGoogleEarthコンテンツを示し,以前の都・藤原京と比べ中央豪族が少ない土地に立地していたことを読み取らせ,そのことから当時の為政者が,中央集権的な政治を強く志向していたのではないかと推察させた。

  生徒にはこれらの考察から,平城京の立地が社会環境面では恵まれた一面があったことを読み取らせる事ができたと考える。

【 平城京の立地を考察させる(社会環境) 】のために作成したGoogleEarthコンテンツ(前出のものと同じ)

中央豪族の勢力圏

 

●「平城京という都市空間」を考察させる

1 平城京全体の地域構造を考察する

  「平城京の時代」の為政者と社会の性格を最もよく反映しているは,もちろん平城京そのものである。「立地」だけでなく,私は,「平城京の地域構造」や「平城京内各エリアの特徴」を生徒達に考察させた。まず地図太郎で作ったGoogleEarthコンテンツで,平城京が,天皇の在所である大内裏,寺院, 住人の貴族・役人・庶民などの居住エリア,商業地区の市などから成る複合的な機能をもつ都市空間になっていることを読み取らせた。

 

【 「平城京という都市空間」を考察させる 】のために作成したGoogleEarthコンテンツ(前出のものと同じ)

平城京の地域構造

2 「大内裏」の読み取り

 またそのうちの「大内裏」については, MAPfrappeという,地図上で任意の場所の面積比較ができるオンラインサービスを使い,ディズニーランドや皇居とほぼ同規模であることを読み取らせた。そしてその大きさには,天皇の威厳や権威を示す意味があったのではないかなどの推察をさせた。

  

【 「平城京という都市空間」を考察させる 】のために活用したサイト

MAPfrappe

3 「寺院」の読み取り

 また「寺院」については,地図太郎で作った,宗派別に寺院の敷地を色分けしたGoogleEarthコンテンツを示し,仏教の教義研究のために複数の宗派の寺院が作られたのではないかと推察させた。

 

【 「平城京という都市空間」を考察させる 】のために作成したGoogleEarthコンテンツ(前出のものと同じ)

寺院

4 「居住エリア-役人」の読み取り

さらに「居住エリア」については,奈良県立図書情報館の公式サイトに掲載されていた「平城京の役人住居」という主題図などを元に作った,「役人住居の位置」と,「それぞれの収入の大きさ」を示すコンテンツを生徒に示した。GE-graphで作ったGoogleEarth 形式の3D統計地図である。この地図から,より官位の高い役人が大内裏に近い所に暮らしていること。「五条」から北側に,高収入の官位三位以上の貴族の住まいがあることを読み取らせた。また天皇を中心にした中央集権構造が,役人の居住場所に反映されていたことを推察させた。

 

【 「平城京という都市空間」を考察させる 】のために作成したGoogleEarthコンテンツ(前出のものと同じ)

平城京の役人住居の位置と給与

● 平城京のイメージは変わったか
 以上が,私が行った授業実践の概要である。授業後の生徒の感想では,平城京やそれを作った為政者の考えや,社会の性格がイメージできて,面白かったとの声も多かった。現在,学校現場では地理教員が,日本史など歴史の授業を担当することはよくある。歴史担当になった地理教員は率先して,年表(タイムスケール)を使った時間軸の考察だけではなく,「得意分野」のGISや地図を使った空間軸での考察を授業の中に取り入れてみてはどうだろうか。きっと生徒たちの歴史観も大きく変わるはずである。

 

 

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